発表することに興味がなかった

物心ついた時から絵を描くのが大好きで美術大学に進学、卒業してからも定職にはつかないで作品を作ることを中心に生活をしてきました。発表もしないで10年以上作り続けてようやく人前に出せる作品が作れるようになと思い始めたときは、もう美術の世界でやっていこうという気持ちはほとんどなくなっていました。

ぼくは自分が好きなものを、自分が好きなときに、自分が好きなようにしか描くことができません。
ぼくの絵を気に入ってくれた人に絵を頼まれたことがあったけど、一つも仕上げることができませんでした。
これでは仕事にするのは難しいと思いました。

予備校生の時に作家になりたい、作家になるんだ、と友達や先生が言っているのを聞いて、自分もそうなってみたいと思ってこれまでやってきたわけだけど、同時に「作家になる」という言葉にずっと違和感がありました。

それは作家になるというのはそれを職業としてお金を稼いで生活できるようになることなのか、それともとにかく作品を作り続けることなのか。自分にとってそれが後者なのははっきりしていました。お金を稼ぐことが悪いとは思わないけれど、稼ぐことを考えると他者の理解を得なければなりません。誰かにわかってもらうこと、認めてもらうことを考えると流行に左右されたり、自分が本来やりたいことから離れてしまう可能性があります。

売るためには部屋に飾ったり、手元に置いておきたくなるような絵を描かなければならないし、コンペで勝つにはサイズやコンセプトを気にして描かなければなりません。それは自分がやりたいことと違うとぼくは全く手が動かなくなってしまうのです。

絵を描くことで誰かに認められるとか、金銭が稼げるとか、美術の世界の歴史の中での自分の位置付けにはほとんど関心がなくて、ただ自分が納得できる絵を描きたいだけ。絵を描くことは物心ついた頃からの日常です。描きたいものがあるから描く、ないときは描かない、ただそれだけです。

誰かに認められたら作家になれたということなのだろうか、お金が稼げるようになったら作家になれたと言うことなのだろうか。有名で作品は高額だけど面白くない絵を描いている人はたくさんいます。そんな作家にはなりたくない。良い絵を描くための環境ができればそれで良い。ぼくは絵描きとして生まれたから「作家」になる必要はないのです。

作家として認知されるために展示をしたりコンペに出したり、そういう「作家活動」に全然興味が持てなくて行動ができませんでした。作家として生きるために作家活動に資金や労力を使うなら、他のことで生活をして時間がある時に絵を描けばいい。美術はライフワークとして、他に生活の糧になる職業に就こうと思い始めたころ、たまたま友達に誘われて井本整体のセミナーに参加して整体の世界に足を踏み入れたのでした。

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